今、この時代に考える「人道」

―アートは「人道」の概念をどこまで表現できるのか―ジュネーブ諸条約70周年の記念に、スイスのエリゼ写真美術館(ローザンヌ)がスイス連邦外務省と共に、赤十字国際委員 会(ICRC)との対話から制作した展覧会『今、この時代に考える「人道」』。人類愛、公平、中立、独立(Humanity, Impartiality, Neutrality and Independence)とい う4つの「人道」の原則を、著名な芸術家に映像や写真で抽象的に表現してもらい、戦時下 にない平和な国に暮らす私たちに、助け合いや思いやりの精神を呼び起こしてもらうこと が狙いです。在日スイス大使館、ICRC駐日代表部、日本赤十字社、国連難民高等弁務官 事務所(UNHCR)駐日事務所、日仏会館・フランス国立日本研究所の働きかけで、2021 年10月、ついに東京の恵比寿エリアにて日本初公開を迎えます。

世界各地で起こる人道の危機は日々ニュースの見出しを飾り、これらの悲劇は涙、苦しみ、 飢え、絶望、孤独、別れ、寂しさ…などのイメージを呼び起こします。危機や暴力、武力紛争、 自然災害、そしてパンデミックを目の当たりにすると、私たちは無力感に苛まれ、これらのイ メージに圧倒されてしまうことがあります。

展覧会『今、この時代に考える「人道」』は、こうした気持ちに応えるものです。スイス国内外の17名のアーティストの写真や作品を通して、人道を実践する礎となる原則、時と場所により変わりうるその概念、そして今を生きる私たちとの関わりへの考察を鑑賞者に促します。 日本の皆さんにも、自分の身近な日常のワンシーンに思いを馳せていただき、「人道」の根 源にある思いやりや助け合いについて、一緒に考える機会となることを期待しています。。


人道についての対話
このアートプロジェクトの目的は、意識的にアートとふれあってもらうことにあります。鑑賞する皆さまには、人道の原則とその原則が私たちの日常生活の中でどのように存在しているかについて自分なりの解釈を導き出し、それをほかの人々と共有することで、地球市民としての対話を促すきっかけとなることを希望しています。
インタラクティブなツールとして、この『今、この時代に考える「人道」』は展示会場だけでなく、オンラインでも対話やディスカッションができるプラットフォーム #DialoguesOnHumanity を設けています。ぜひ、気軽に対話に参加していただき、ご自身の思いや経験を世界中の人々と分かち合ってください。さまざまな視点に触れることで議論が刺激され、たくさんの人が集う場となることを期待しています。
世界各地を結ぶプラットフォーム「#DialoguesOnHumanity」に参加して、あなたの考えや思い、疑問を共有してください。



基本原則・人道の原則の発展

国際赤十字・赤新月運動の基本原則は、抽象的な理念として生まれたものではありません。その起源は1859年のイタリア・ソルフェリーノの戦場にあり、自発的に負傷者・重篤者に手を差しのべた、慈悲に満ちた人々の実際の行動に由来しています。ソルフェリーノの戦いの直後に、将来の人道活動の礎となる基本理念や行動規範の策定に向けた取り組みが始まりました。その最初の試みは、1862年に出版されたアンリー・デュナンの 『ソルフェリーノの思い出』に早くも見ることができます。

同じことが人道の原則についても当てはまります。自然災害、武力紛争、その他混乱を極める非常事態に見舞われた人々へのアクセスを確保し、世界のどこであっても、人間の苦しみを緩和するために極めて重要です。これらはもはや赤十字を超え、いまでは全ての国家、そして国連や国連機関にとっても重要な指針となりました。人道支援の目的は、こうした原則の枠組みの中で、いのちと健康を守り、人間の尊厳を確保することにあります。

その“人道支援”は、私たち日本人が暮らす世界とは異なる遠く離れた世界のこととして、切り離されることもままありますが、実は、私たちの日常生活にも深く根を張っているのです。

人道の原則

人道の4つの原則である、「人類愛」「中立」「公平」「独立」は、何百万人もの被害者に支援と救済を提供する行動を導く羅針盤です。この原則とそれにともなう価値観は、人道の活動を支える基盤・目的であり、その活動に普遍的な主張を与えるものです。

人類愛
人間の苦しみは、それがどこであっても対処に向けて行動を起こされなければなりません。人道の活動は、人間のいのちと健康、尊厳を守るために行われるものです。

公平
人道の活動は、その必要性にのみしたがい、緊急性の高い苦しみを最優先に実行されます。国籍、人種、性別、宗教的信念、社会的地位、政治上のいかなる意見にも左右されません。

中立
人道の活動を行う者は、敵対するいずれの側にも加わらず、いかなる場合にも政治的、人種的、宗教的または思想的性格を有する問題には関与しません。

独立
人道の活動は、活動が実施されている地域の政治的、経済的、軍事的、その他のいかなる目的の主体者から独立し、自主性を保ち行われます。

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